2018-01-01から1年間の記事一覧

イメージの顕現についておぼえがき――騎士団長殺し

『騎士団長殺し』を読んでちょっと気づいたことを書き留めておく。村上春樹の作品の主人公たちはちょっと特殊な人たちに見える。やたら丁寧な暮らしをしているし、思考の跳躍が何度も見られる。それを象徴するのが、服装についての細かな描写である。服の色…

変わる自分を許さない――私が大好きな小説家を殺すまで

『私が大好きな小説家を殺すまで』は、作り出す才能を失ってしまった人間と、崇拝する人間の話だ。人は変わる。ものを作り続けることは途方もなくいろいろなものを投げ捨てる必要がある。しかも自分の根っこに関わってくる。もしそれを失ってしまったら、自…

集めることは生きること――オブジェクタム

記憶は全て断片化し、集めておかなければ雲散霧消する。情報もそう。忘れられる権利という言葉があるけれど、大局的に見ればネットの情報のほとんどはアーカイブされず、ジャンクの山として消えていく(もちろん悪意をもってアーカイブされ続ける場合もあり…

統制しつくされたミステリ、人間には統制できない探偵――喰いタン

www.sukima.me 11月30日まで無料なので『喰いタン』の話を書かねばなるまい。そう決意したはいいものの、『喰いタン』についてはネットの民がすでに書きつくしている。私の駄文を読むよりも、まずはページを開くが良い。……とはいいながら、自分の感想を書い…

誤解によって生まれる不思議――今だけのあの子

芦沢央の『今だけのあの子』を読んだ。女どうしの友情に絡まるちょっとした不可解をテーマにした連作集である。彼女たちの間に起こる不可解は、たいてい主観の誤解によって生まれている。どんなミステリでもそうかもしれない。結末から遡っていけば何も不思…

「普通」が崩れるこわさーー鳥肌が

ほむほむ(「愛よ」とか言っている方ではなく短歌作っている方)は、あまりに普通すぎて誰も取り上げないことを適切な言葉で取り出すことができる。短歌評論(出典忘れた)で「歌人ははっとするほど普通の人」ということを本人が言っていたのだけれど、まさ…

くずにっき

風邪をひいて寝込んでいた。人生を生きていない状態を継続している。読んだ本が溜まってきているので感想をどんどんまとめていきたいが、なかなか体力がおぼつかない。老人と化している。

他者そして自分のカリカチュアーー死体泥棒

『騎士団長殺し』と同じタイミングで『死体泥棒』を読んだのは偶然なのだけれど、世界に置いて行かれた人を描写しているという意味でこの2つはとても良く似ている。『CARNIVAL』のシナリオライターとして有名な瀬戸口廉也。小説家としての名義が唐辺葉介で…

騎士団長殺しについて一言

『ダンス・ダンス・ダンス』と『ねじまき鳥クロニクル』やんけ!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (すいません後でちゃんと感想書きます)

日常の陥穽

図書館で上下巻を一気に借りた。家に帰ってよく見たら、どちらも下巻だった。よりにもよって、という感じだ。 図書館に同じ本は2冊ない、という思い込みが確認を怠らせたのだろう。だが、有名な本だとそういうことがままある。日常の陥穽、という感じだ(否…

それはあまねく訪れる――学園七不思議

つのだじろうの『学園七不思議』をだらだらと読んでいた。アニメの方は未見。美少女ってわけではないが、全体的に女の子の顔がひねくれていてかわいい。特にいじけた口が好きだ。やはりホラーと女の子はワンセットだ。いくつかの学園編に分かれていて、主人…

へんなかばん

ある程度の年齢になると、ユーモア系のアイテムを「素」で持っているだけで一人前と扱われない。私は社会からドロップアウトしている身なので、自分が好きな変なものを持ち歩いているのだけれど、そうでないときに比べ周りの人たちの目が厳しいというか、ぎ…

リッツくらい大きなダイアモンド

「そんなのぜんぜんお話にもならないさ。だって僕の父は、リッツ・カールトン・ホテルよりも大きなダイアモンドを持っているんだもの」 『リッツくらい大きなダイアモンド』は、フィッツジェラルドの小説としてはちょっとだけ珍しい。フィッツジェラルドの大…

本を投げることすらできやしない――コズミック・ゼロ

人間が、たくさんいる。 シンプルすぎて斬新ですらある書き出し。元日午後零時に初詣客が多数消失、それとともに警視庁などが謎の集団に占拠される。それは『日本絶滅計画』の始まりだった――。消えた家族を探す婚約者ペアとその家族を中心に、SISとかCIAとか…

リソースの割り振り方――彩紋家事件

『コズミック』を遠い昔に読んで異様な衝撃を受けた覚えはあるのだけれど、『カーニバル』や『ジョーカー』は未読である。なぜか今回は『彩文家事件』と『コズミック・ゼロ』を読んだ。 読んだ感想を一言でまとめると、「『コズミック』の面白さって大量に人…

構造物が生物の生殺与奪を握る――ウイルス・プラネット

『ウイルス・プラネット』を読んだ。小さな頃からこういう学術畑の人が書いた一般書が好きで、よく図書館で借りていたのを思い出した。ウイルスというと身構えてしまうけれど、我々の生活から身体の仕組みに至るまでその存在は欠かせない。 生物畑ではない人…

くずにっき

カフェインと糖質の繰り返しでどんよりとした覚醒とじっとりとした眠りに取り込まれている。生活を立て直せない。

歪んでいるのにクリティカルな関係――めしにしましょう

深読みしすぎと揶揄されてもいい。『めしにしましょう』は非常に屈折した百合漫画である。 ちょっと違うな。青梅川おめがと广大脳子は両方ともアイデンティティの核に女性である部分があまりない。特に作者の投影である青梅川さんには。だから、百合ではない…

引き寄せる力と離れる力――みずは無間(途中?)

『みずは無間』について書くのは難しい。なぜなら、私はみずはと主人公の両者の性質を併せ持っているから、あまり客観視して書けないのだ。修行が足りない。無人宇宙探査機のAI、雨野透には、実在の人間の人格が投射されている。面倒くさくて重たい彼女・み…

くずにっき

小説を書いているが、長編が書けない。三題噺みたいなことしかできないつくづく文章がうまくない。書くという行為自体が好きではないのかもしれないが、それを取り除いたら私にはやることがなくなってしまうので認めないでおこう。

何もなく通り過ぎていくという悲劇――ハラサキ

「ひなちゃんのしたこと、あたしは許せそうにない」 幼少期の記憶を覚えていない女性が婚約を期に故郷に帰る。電車の中で気を失って目覚めると、駅の外には女性が倒れていた――。あらすじの通り、幼少期の記憶がない女性とその婚約者の男性の目線で彼女の過去…

エロ界の水戸黄門――どす恋ジゴロ

前回『任侠沈没』を読んで、こりゃあ勢いのある漫画を読まなければ、というか勢いしかない漫画を読まなければ!という謎の思いに誘われ、平松伸二の漫画をいろいろ漁っていた。 みんなだいすき平松伸二。『ブラック・エンジェルズ』の思い出を聞くと、たいて…

(勢い)(勢い)(勢い)――任侠沈没

某ツイッタラーさんが勧めていたのでちょこっと覗いてみたら……あっという間に最後まで読み切ってしまった。侠気あふれるヤクザ、大紋寺龍伍。組を思って組長の息子を斬ったがゆえ恨まれ、妻と子を殺されてしまう。仇討ちのため、組長のいる東京に向かおうと…

プラネット・ウィズの雑多な感想

『プラネット・ウィズ』を見た。何というか、『テニスの王子様』とコロコロの販促漫画(ベイブレードとかミニ四駆とか)をあわせたみたいなバカアニメで面白かった。面白かったところ、気になったところをメモしておく。以下ネタバレ。

小さなスケッチで世界を満たす――メルカトル

救済院の寮母たちは、子どもたちに触らせたくないものにわざと気味の悪い名前をつける。応接室にある椅子のことも「ひきがえる」と呼んだ。詰めもので膨らませた布団とひしゃげた短かい脚のシルエットがひきがえるにそっくりだったからだ。それらの椅子は、…

うつにっき

今日は寝て起きてを繰り返していた。ちょっとしたきっかけですぐに機嫌が悪くなり、ぐずっているうちに人生が終わる。なんと不毛な人間なのだ。

みんなで突っ込もう「性格悪い!」――火の中の竜 ネットコンサルタント「さらまんどら」の炎上事件簿

ネット炎上、毎日してますよね~(小林製薬) インターネットの片隅で、毎日誰かがどこかでスターになって燃え尽きていく。むしろこれだけ毎日燃えているのなら誰も注目しないんじゃないか……なんて思ったりするけれど、ひとときの怒りを娯楽としたくてみなク…

雪の断章

『雪の断章』は孤児を描いた話であるけれど、それ以上にヒールをきちんと描写した物語である。孤児をすくい上げる王子の影はむしろ薄く、『あしながおじさん』とか『キャンディ♥キャンディ』を唾棄してきた人にこそ読んでほしい。……というところで感想を終わ…

信じるものは救われない――彼女がエスパーだったころ

宮内悠介は、考えすぎた人の行き着くエモーションを書くのがうまいと思う。自分の問題を自分の思考で解決しようとした結果、なんだか突拍子もなかったり、常人では考えつかないような結末に至る。本人が自分自身で進んだ結末だからこそ、始末に終えないほど…

跳躍する思考は消えて――言壺

神林長平の『言壺』を始めて読んだ。円城塔の『文字渦』とちょっと比較してみたかったというのもある。でも、扱っているテーマがそんなに似ていないので、これ単体で感想をまとめておいた方がいいように感じた。もしかしたら後で比較するかもしれない。『言…