本
これだけ電書が盛んになっても、電書でしかできない読書体験を押し出してくる小説ってあんまりない。これとかが最初に思い浮かんだけど、多分これは本であっても面白いと思う。(怖くて1回しか読めていないけど面白いです)電書が広まらない理由はそこにあ…
『騎士団長殺し』を読んでちょっと気づいたことを書き留めておく。村上春樹の作品の主人公たちはちょっと特殊な人たちに見える。やたら丁寧な暮らしをしているし、思考の跳躍が何度も見られる。それを象徴するのが、服装についての細かな描写である。服の色…
『私が大好きな小説家を殺すまで』は、作り出す才能を失ってしまった人間と、崇拝する人間の話だ。人は変わる。ものを作り続けることは途方もなくいろいろなものを投げ捨てる必要がある。しかも自分の根っこに関わってくる。もしそれを失ってしまったら、自…
記憶は全て断片化し、集めておかなければ雲散霧消する。情報もそう。忘れられる権利という言葉があるけれど、大局的に見ればネットの情報のほとんどはアーカイブされず、ジャンクの山として消えていく(もちろん悪意をもってアーカイブされ続ける場合もあり…
芦沢央の『今だけのあの子』を読んだ。女どうしの友情に絡まるちょっとした不可解をテーマにした連作集である。彼女たちの間に起こる不可解は、たいてい主観の誤解によって生まれている。どんなミステリでもそうかもしれない。結末から遡っていけば何も不思…
ほむほむ(「愛よ」とか言っている方ではなく短歌作っている方)は、あまりに普通すぎて誰も取り上げないことを適切な言葉で取り出すことができる。短歌評論(出典忘れた)で「歌人ははっとするほど普通の人」ということを本人が言っていたのだけれど、まさ…
『騎士団長殺し』と同じタイミングで『死体泥棒』を読んだのは偶然なのだけれど、世界に置いて行かれた人を描写しているという意味でこの2つはとても良く似ている。『CARNIVAL』のシナリオライターとして有名な瀬戸口廉也。小説家としての名義が唐辺葉介で…
『ダンス・ダンス・ダンス』と『ねじまき鳥クロニクル』やんけ!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (すいません後でちゃんと感想書きます)
「そんなのぜんぜんお話にもならないさ。だって僕の父は、リッツ・カールトン・ホテルよりも大きなダイアモンドを持っているんだもの」 『リッツくらい大きなダイアモンド』は、フィッツジェラルドの小説としてはちょっとだけ珍しい。フィッツジェラルドの大…
人間が、たくさんいる。 シンプルすぎて斬新ですらある書き出し。元日午後零時に初詣客が多数消失、それとともに警視庁などが謎の集団に占拠される。それは『日本絶滅計画』の始まりだった――。消えた家族を探す婚約者ペアとその家族を中心に、SISとかCIAとか…
『コズミック』を遠い昔に読んで異様な衝撃を受けた覚えはあるのだけれど、『カーニバル』や『ジョーカー』は未読である。なぜか今回は『彩文家事件』と『コズミック・ゼロ』を読んだ。 読んだ感想を一言でまとめると、「『コズミック』の面白さって大量に人…
『ウイルス・プラネット』を読んだ。小さな頃からこういう学術畑の人が書いた一般書が好きで、よく図書館で借りていたのを思い出した。ウイルスというと身構えてしまうけれど、我々の生活から身体の仕組みに至るまでその存在は欠かせない。 生物畑ではない人…
『みずは無間』について書くのは難しい。なぜなら、私はみずはと主人公の両者の性質を併せ持っているから、あまり客観視して書けないのだ。修行が足りない。無人宇宙探査機のAI、雨野透には、実在の人間の人格が投射されている。面倒くさくて重たい彼女・み…
「ひなちゃんのしたこと、あたしは許せそうにない」 幼少期の記憶を覚えていない女性が婚約を期に故郷に帰る。電車の中で気を失って目覚めると、駅の外には女性が倒れていた――。あらすじの通り、幼少期の記憶がない女性とその婚約者の男性の目線で彼女の過去…
救済院の寮母たちは、子どもたちに触らせたくないものにわざと気味の悪い名前をつける。応接室にある椅子のことも「ひきがえる」と呼んだ。詰めもので膨らませた布団とひしゃげた短かい脚のシルエットがひきがえるにそっくりだったからだ。それらの椅子は、…
ネット炎上、毎日してますよね~(小林製薬) インターネットの片隅で、毎日誰かがどこかでスターになって燃え尽きていく。むしろこれだけ毎日燃えているのなら誰も注目しないんじゃないか……なんて思ったりするけれど、ひとときの怒りを娯楽としたくてみなク…
『雪の断章』は孤児を描いた話であるけれど、それ以上にヒールをきちんと描写した物語である。孤児をすくい上げる王子の影はむしろ薄く、『あしながおじさん』とか『キャンディ♥キャンディ』を唾棄してきた人にこそ読んでほしい。……というところで感想を終わ…
宮内悠介は、考えすぎた人の行き着くエモーションを書くのがうまいと思う。自分の問題を自分の思考で解決しようとした結果、なんだか突拍子もなかったり、常人では考えつかないような結末に至る。本人が自分自身で進んだ結末だからこそ、始末に終えないほど…
神林長平の『言壺』を始めて読んだ。円城塔の『文字渦』とちょっと比較してみたかったというのもある。でも、扱っているテーマがそんなに似ていないので、これ単体で感想をまとめておいた方がいいように感じた。もしかしたら後で比較するかもしれない。『言…
昨日は『ニルヤの島』について文章を書いたのだけれど、自分が好きなポイントや面白かった部分についての記述がちょっと足りないなあと後で思い直した。ので、書く。『ニルヤの島』の面白さは、登場人物の抱える空虚や茫漠をそのまま描いているところだ。人…
なるべく好きなものの話だけ書いていたいものだけれど、苦手なものや嫌いなものの感想のほうが筆が進んでしまう。性格が悪いのだと思う。今日は好きなものについて書こう。というわけで『ニルヤの島』を取り上げる。見た目も性格もなかなか濃い柴田勝家(作…
まだ自分の中であやふやなところもあるので、ざっくりとした感想をば。『異セカイ系』を読んだ。私がずっと考えているテーマをモロに扱っていて、作者が渾身の解答を読者に叩きつける。面白かった。 面白かったのだけど、これは一般的な解決ではないことが悔…
『バーナード嬢曰く。』を読んでいると、彼らがすごーく賢いことに驚いてしまう。ド嬢たちはそれぞれが本を「自分の立場で読んでいる」ということを理解している。つまり、「自分が曲解して本を読んでいる」ことに自覚的なのだ。受け取り手の自分がいるとい…
長谷敏司は作品の最後にオープンクエスチョンを投げてくる小説をよく書く。『あなたのための物語』や『父たちの時間』、『震える犬』。すべて物語が一応の完結を迎えるものの、問題の解決が起こったわけではない。なぜなら、それらの問題はすべてこの現実で…
読者の幸せのために 未読の人に「しあわせの書」の 秘密を明かさないでください 「ラスト○分、あなたは驚愕する!」ではないけれど、大仕掛けをした小説や映画はそれを売りにすることがある。だけど、それを売りにした時点で「なんかあるんだな」ということ…
『猫のゆりかご』のハヤカワ文庫を裏返してあらすじを見たのだけれど、これだけ見てわかるのだろうか。というか、この本の面白い部分が伝わるのだろうか……と心配になってしまう。以下の紹介文がすごく簡潔明快。wikipedia見ると始めから終わりまでの概要がす…
野崎まどの『ファンタジスタドール イブ』は最初の1行でわかるくらいに『人間失格』を下敷きにしている。『人間失格』のミームの強さというか、一読してメインの文章を覚えてしまうくらいの強烈さにはっとなって、読み返していた。夏目漱石は情景描写がうま…
しばらく静養することになったけれど、何しよう。掃除をするのが一番合理的なのはわかっているのだが、何故か手が動かない。家を居心地よくすれば外で無駄な金を使わなくて済むのに……これ前も書いたな。『赤毛のアン』とか『長くつ下のピッピ』のwikipediaを…
一時期TSUTAYAの本棚に『この闇と光』が並べられていた。それを見て私は『テレヴィジョン・シティ』の人だと思っていた。……長野まゆみと間違えていたのだ。語弊を恐れずに言えば、結構似ていると思う。というわけで『一八八八 切り裂きジャック』。この本は…
宮内悠介はSF・ミステリ・純文学とジャンルを超えたレーベルで作品を重ねる作家である。その中心にあるのは結構エモーショナルな動機と、それに肉付けする資料を読み込む粘着気質にあるのかもしれない。『エクソダス症候群』は、精神疾患とその治療に関わる…