雪の断章

『雪の断章』は孤児を描いた話であるけれど、それ以上にヒールをきちんと描写した物語である。孤児をすくい上げる王子の影はむしろ薄く、『あしながおじさん』とか『キャンディ♥キャンディ』を唾棄してきた人にこそ読んでほしい。

……というところで感想を終わらせればいいのだけれど、私は余計なこと書くマンなので余計なことを書いていく。


この作品に限らず孤児ものの多くに言えることだけど、救済やのし上がりの方法に対する描写が甘い。不幸な人間が幸せになる、それはカタルシスなのだけれど、その理由をすべて運命にしてしまうと救いがない。だからといって努力ですべて片付けてしまうのもなんだか変な話である。孤児を軸にすると、孤児という設定だけが浮いて世界や性格の構築がなんだかあやふやになってしまいがちなのだけれど、それは孤児を馬鹿にしているような気にすらなる。この本の飛鳥はかなり特殊な性格をしているけれど、「孤児である」というところに立脚していないパーソナリティがほとんどない。彼女が彼女の力と運命によって幸せになった、その説得力があんまりないのだ。だからこそ逆にヒールが生っぽくて魅力的なのだけれどね。