何もなく通り過ぎていくという悲劇――ハラサキ

「ひなちゃんのしたこと、あたしは許せそうにない」

幼少期の記憶を覚えていない女性が婚約を期に故郷に帰る。電車の中で気を失って目覚めると、駅の外には女性が倒れていた――。

あらすじの通り、幼少期の記憶がない女性とその婚約者の男性の目線で彼女の過去に迫っていくホラーである。二人は離れていて、女性は異世界から、男性は現実から消えた記憶を補い合う。過去を掘り探るサスペンスではなく、謎の影に襲われるホラーをメインにすることで、最後まで緊張感をもたせるアイデアが光っている。

この小説を読んで思ったのは、呪いや恨みによって報いを受けるのは、真に事件を引き起こしたものや原因になったものではなく、思い入れが一番強いものであるということだ。いや、すべてが原因だからこそ、自分の気持ちが一番向いている対象にこだわってしまうのだろう。だから、「どれだけ対象への思いが強いか」をきちんと描写したホラーは面白い。でもその分だけ、本来原因になっている他の人にとっては何もなく事件が通り過ぎてしまうという、その事実がやるせない。