流れよわが涙、と警官は言った

本についての文章を書くとどうしても紹介文になってしまう。どうせ誰も読んでいないのだから、自分用の感想メモみたいなものでもいいのだろう。まあ、文章のリハビリがメインなので、紹介文という枠があったほうがやりやすいのかもしれない。

複数の本を同時に読み進める読書スタイルなので、読み終えてすぐのフレッシュな感想を書くことができない。大体十冊くらいを拾い読みしながら3,4周くらいして、やっと文章にしようかなという気になる。3,4周するくらい面白くないとそこから外れてしまうので、つまらなかった本の記録が残らない。そして、ブツ切れな読み方をしているので、どうも感想が浅い。文章をほぼ推敲しないでブログに載せているというのもある(推敲するとハードルが上がって毎日ブログ書かなくなっちゃうので)。巷の読書ブログはよくあんなに洞察できるなあって感心してしまう。

こういうスタンスで書いているので、もし読んでくれている人がいるのならばお手柔らかにお願いします、という言い訳でした。

で、今日の本はこれです。タイトル買い本として名高い、PKDの『流れよわが涙、と警官は言った』。超有名マルチタレントの主人公その1がある朝目覚めたら、自分の存在が消えていた。誰の記憶からも、何の記録からも。なんとかやっていくために国家記録をすり抜けたのはいいけれど、そのために警官に追われることとなる。その警官が主人公その2。

マルチタレントが置かれた状況は物語として魅力的だけれど、結末はわりとなあなあになる。タレント自体がいけ好かないというか、存在に深みがないので、こいつに感情移入できない。というか、感情移入できないように仕組まれている。そして、後半の主人公である警官の複雑な感情に自然と注視することになる。

Amazonレビューを見ると、この話は愛がテーマになっていると捉えられることが多いらしい。それはそうなのだけれど、この話の主軸は、価値観が違う主人公二人が自分の人生や周りの人に対峙する話なのではないかと思う。そこで浮き上がってくるのが愛だったり、憎しみだったり、思いもしなかった親切だったり、嫌悪だったりする。でも、浮き上がってきたそれぞれの感情が大事なのではなく、主人公二人が自分の人生を崩されるような状況に置かれて、それぞれの地位や名誉を剥ぎ取られて、丸裸の状況でやっていくという過程自体がメインであるように私は感じた。丸裸の状況で何かをうまく判断できない1人目の主人公と、苦悩する2人目の主人公。読者を混乱させる原因となっているこの2段仕立ては、2人のテストケースを見せるためなのかもしれない(置かれる状況は全然違うけれどね)。

ここまで、1人目のマルチタレント主人公のことをボロクソに言ってきた。確かに物語の中では屈折した複雑な2人目の主人公が魅力的で、マルチタレントの方はあまりに浅薄に映る。だがしかし、マルチタレント主人公は我々の大部分を反映している。複雑な感情を本当は持っているはずなのだけれど、失ったものに固執して過去を引き剥がせない。こいつの存在に深みがないのは、私(たち)の存在に深みが無いからだ。