髪禍

僕たちはいつも適当に身体を操った気になっているけれど、人体ってよく見ると結構気持ち悪い。肌をじーっと見ていると毛穴がみっちりしているし、爪を切った後透かしてみれば変な波模様が見える。人体を客体化することによって見える気味の悪さは、ホラーのネタにされてきた。

最近読んでヒットしたのが小田雅久仁の『髪禍』。タイトル通り、髪の気持ち悪さを扱ったホラー……というより怪奇小説である。薄幸の女性が引き受けたアルバイトは、髪を神聖化する宗教のサクラ。そのバイトの真実は、なんていうお話。タイトルやあらすじから想像できる以上に奇怪なことが起こる。

この作品は、はじめから終わりまで薄ら寒いような気持ち悪さに貫かれている。もちろんメインは後半の宗教儀式のシーンなのだけれど、秀逸なのは前半部分ではないかと思う。後の出来事には直接関係ないような、主人公の不幸な人生がじっとりと綴られる。ようく考えてみると嫌な気持ちになるようなちょっとした仕草や言葉が注意深く忍ばされていて、それが後半での髪の恐怖を増大させる。日常の中で気づいてしまったら気になって仕方ない嫌悪、不安が、いつも付かず離れず自分について回る髪の毛のイメージに結びついて、ややもすれば破天荒な宗教儀式のシーンを身近に引きつける。

この短編は2017年の年刊日本SF傑作選に載ってます。松崎有理の『惑星Xの憂鬱』とか、伴名練の『ホーリーアイアンメイデン』もいつか紹介したい。