ハーモニー(伊藤計劃)

結局、本についてあんまり書いてないので、下書きからあさってみる。

『ハーモニー』。20回は下らない回数読んできた。バイブル、というほど好きなわけではないのだけれど、何かを考えながら読むのには適切な文章/内容なので「愛用」してしまうらしい。

ディストピアディストピアとして機能するためには、語り手の存在が必須である。まやかしの世界、偽りの楽園。エデンにどっぷりと使っている人間は、その歪みを認識することができない。だから、ディストピアの主人公は世界が(世間で言われているよりも)美しいものではないことに「目覚める」必要がある。
それは思春期にも似ている。自分を守ってくれていた大人が、社会が、楽園が、実はそんなにも強くなくて、優しくもないこと。結局、自分と同じくらいには、いやそれ以上に、欠陥を抱えていること。その気付きはあまりにも残酷だ。ディストピアを扱った作品に私が心奪われてしまうのは、その息苦しい「目覚め」を追体験するからかもしれない。

『ハーモニー』の場合、その「目覚め」が実際の思春期とかぶっている。それはどんなに息苦しいことだろう。

ところで、『ハーモニー』と同じ問題で逆方向の問いをしている『バビロン』(野崎まど)があるんだけど、まだ対比した書評はでてないんですかね。あと歌野晶午の『密室殺人ゲーム』シリーズとか。両方とも、まだ完結してないからかな。