猫のゆりかご

『猫のゆりかご』のハヤカワ文庫を裏返してあらすじを見たのだけれど、これだけ見てわかるのだろうか。というか、この本の面白い部分が伝わるのだろうか……と心配になってしまう。以下の紹介文がすごく簡潔明快。wikipedia見ると始めから終わりまでの概要がすべて書いてあるので、ネタバレしたくない人は注意。

shinshibunsei.com

以下は私的な感想。

『猫のゆりかご』は世界終末の物語だ。いや、もう少し言えば、様々な人間が少しずつ絡み合うことで、ふとした拍子に世界が終わってしまう話である。

科学、宗教、国家といったものがちょっとしたほころび、寄り道、勇み足を見せる。それらの全てには登場人物たちのうら悲しい人間臭さが関わっている。一つ一つは小さな、ありふれた、つまらないくらいの「あぶない」意見や行動が、科学を蓄積し、宗教を作り上げ、国家を構築する。それによって、誰もスイッチを押していないのに、いや、みんながいっせーのーででスイッチを押したかのように、すとんと世界が終了する。そんな話である。

悲観的に聞こえるかもしれないが、そんなことはない。上記の「あぶない」行動は、一つ一つ取り上げるととてもコミカルだ。コミカルだからこそ、とても貧乏くさくて悲しい。現実世界の成り立ちもきっとこんなものなのだろう。終末ものはやたら美しく描かれたり、恐怖を煽ったりするものが多いけれど、この本はファニーで、すっとぼけていて、それゆえにきゅんと寂しくなる。