グラン・ヴァカンス

『デュオ』を読んで飛浩隆いいなあと思い読んでみた。ドンピシャである。
「SFは絵である」とは野田昌宏の言葉(だったっけ?)であるけれど、正直言って私はあんまり絵を想像したことがなかった。日常を文字で覚えていて、本もきれいな文章や言葉をそのまま文字のまま読み、覚えている感じ。だけどこの人の本は絵だと思う。というより、身体感覚に結びついた描写をするがゆえに、五感で文章を覚えてしまう。色であったり、匂いであったり。

『グラン・ヴァカンス』は鋭敏に醜い感覚を読者にこれでもかと押し付ける。そしてそれが内容に必要なのだ。作られて、忘れられたAIたち。本に出てきたお姫様は本を閉じれば「しあわせにくらしました」の先はなく、映画に出てきたヒーローは爆破されたビルの前で微笑むばかりである。彼らは現実の人間を楽しませるだけのために存在し、その目的以外の世界は最初からなかったかのように忘却される。引き伸ばされた日常、歪んだ夏休み。